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やまがた山菜・きのこものがたり
山里が秋の色に染まった頃、東京に暮らすナツミちゃんが、弟のシンくんと一緒に山形に遊びに来ました。おじいちゃんのハル爺は、きのこ採りの名人。今日は、どんな山の話をしてくれるのかな?
ナツミ
お山の木の葉が紅や黄色に変わっていて、とってもきれい! 空気もおいしくて、深呼吸しちゃった! 秋になったから、大好きなきのこがいっぱい採れるわね。
ハル爺
おやおやナツミ、きのこは秋だけじゃないんだぞ。このあたりの山は〝夏きのこ〟が採れるのを知っているかな? 豪雪地帯だから湧き水が多くて、気温も低い。月山は標高が1984メートルとそんなに高い山ではないが、3000メートル級の山と同じくらいの気候で、夏でもきのこが採れる環境が整っているんじゃよ。
山菜の季節が終わる頃、7月の後半にはとびたけが出始めて、8月になるとすすたけやたもぎたけ・はなびらたけが採れるようになる。すすたけは炊き込み御飯にしたり、とびたけは煮物やぬた和えにして食べると、うまいんだ。
それから晩秋までは、むきたけ・なめこ・ひらたけなどが採れる。昔は、山に狩りに行って捕まえた熊や野うさぎ、山鳥などは貴重なたんぱく源で、これを鍋にして、きのこをたっぷり入れて食べたもんだ。
冬は雪が多くて、12月から雪が解ける4月くらいまでは、山には入れないがなぁ。
ナツミ
夏もきのこが採れるなんて、知らなかったわ! それに、種類もいっぱいあるのね。
ハル爺
きのこは種類が豊富で、10月頃には勢揃いするが、一口にきのこと言っても、天然のものは菌やその土地の条件によって採れるきのこが違うんじゃ。たとえば、このあたりはスギやブナ、ナラの木が多くて、なめこ・きくらげ・やまぶしたけ・まいたけなど、いろんなきのこが採れる。同じ山形でも置賜地域がまつたけの産地として知られているのは、アカマツが多いからで、アカマツの根元に松茸が生えるんだよ。
ナツミもシンも大好きななめこは、主にブナの倒木や枯れた幹、切り株にびっしりと生える。昔、きのこ採りの名人は、遠くから山の木の枯れ具合を見て、「あのあたりに、なめこが出そうだ」と予測して山に入ったそうだ。
ナツミ
わたしも、きのこを採ってみた~い! ねぇハル爺、いまから山に連れて行って!
ハル爺
ハッハッハ、ナツミは気が早いなぁ。なめこも時期によって違いがあるんだよ。秋の早いうちは、どちらかというと〝ぬめり〟が弱くて、食べたときにサクサクしている。
それが11月に入って寒い時期になると〝寒なめこ〟といって、〝ぬめり〟が強くプリプリとした硬さが出てくるんじゃ。それが天然の味わいなんじゃよ。
いまは一年中、いつでもおいしいものを食べられるが、山菜やきのこは、その季節ならではの〝山のもの〟が味わえる、森からのおくりものなんじゃ。
ハル爺
さぁ、今晩はハル爺が腕をふるった、とびきりう~まい〝きのこ鍋〟じゃよ。大きな鍋にたっぷりつくったから、二人ともいっぱい食べろよぉ。
きのこは一つ一つに独特の味と香りがあって、5種類から6種類のきのこを入れるとお互いの旨味を引き出すから、余計なダシがいらなくなるんじゃ。この〝きのこ鍋〟は、原木しいたけ・しめじ・まいたけ・むきたけ・なめこ・あみたけと鶏肉を入れたハル爺の特製鍋だ。どうじゃ、おいしいだろ~。
シン
うん、大好きなきのこがいっぱい入っていて、おいしい~! ハル爺、おかわり!
ナツミ
ホントにおいしい~! でも、全部は食べきれないから、何だかもったいないわ。
ハル爺
心配いらんよ。〝きのこ鍋〟が残ったら、明日、玉子とじにして親子丼風にしてもいいし、カレー味にしても、うどんを入れてもおいしいぞ。〝山のもの〟は〝山の神様〟からのいただきものだから、昔から決して粗末にしないんじゃよ。
昔の人は、貴重な食料のきのこや山菜を天日で乾燥させたり、塩漬けにしたりして、長く保存する方法を考えた。それは先人の知恵じゃ。いまは冷凍保存したり、ビン詰めにしたり、便利な世の中になったが、〝山のもの〟を大切にする心は変わらんよ。
ナツミ
ハル爺、今年も干柿をつくったのね。オレンジ色のカーテンみたいで、きれいだわ!
ハル爺
家の裏からつづく里山に柿の木があるじゃろ。その柿の実をもいで、一つ一つ皮をむいて天日に干しているんだよ。干柿はつくるのに手間も時間もかかるが、昔は冬場の保存食でもあったし、この自然の甘さは何ともいえんほど、うまいからなぁ。
干柿はそのまま食べてもおいしいし、いまは干柿の中にクリームチーズを入れたり、ハイカラなお菓子もあるそうだ。
シン
柿の木のてっぺんのほうに少し実が残ってたけど、あの実はどうして、もがないの?
ハル爺
あれは〝木守り柿〟といって、「来年もよく実りますように」という祈りを込めて、わざと残しているんじゃよ。それに、昔から「これから冬になると野山の鳥たちも食べ物がなくなって大変だろうから、残しておいてやろう」と考えたんじゃ。
〝山のもの〟は森の恵みで、人も動物も鳥も森の恵みをいただいて生きている。それで、この「森」からシンという名前をつけたというわけだ。
シン
そうか! だからボクは、木も森も山も大好きで、友だちみたいな気がするんだね!